それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 私は健康で、友達もいて、なに不自由なく生きている。それなのに、事故で命を奪われてしまった人に嫉妬するなんて……。

 なんて自分勝手で、どれだけ思いやりがない人間なんだろう。

 自己嫌悪でいっぱいになり、耐えられそうにない。

 ベンチに座ったまま身体を丸め、声を殺して泣いた。

 泣いて、泣いて、浮かぶのはあの日の楓先輩の温かさ。今みたいに泣きじゃくる私の手を握り、そっと寄り添い、ただそばにいてくれた。

「楓先輩……」

 あの優しいぬくもりが恋しい。

 だけど、先輩は遠い場所へ忘れられない人に会いに行っている。私が楓先輩を好きでいつづけるのは、亡くなった原口さんを裏切っているんじゃないかな。

 そう考えた途端、私はお母さんの豪快な笑い方を思い出せなくなった。



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