それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 物心がついてからは決して他人に触れないようにしていたから本音はわからないが、実の両親よりも希美の両親の方がよほど優しくて温かい。週に何度かは夕食に呼んでくれたし、テストでいい点数を取ると褒めてくれた。そんな環境だったから、希美とは友だちというより兄妹のように育った。

「今日はさ、報告があるんだ。俺、彼女できた」

 照れくさいような、でも誇らしいような気持ちで菜々の顔を思い浮かべた。左側から見上げてくる上目遣いや、はにかんだ笑顔が好きだ。今日一日会えないと思うだけで、物足りなさを感じるほどに。

 完全に初恋に溺れているのを自覚し、自分自身に苦笑した。さすがにそんなこと、家族同然の希美にだって話せない。

「希美の参考書を拾ってくれた、あの子だよ」

 希美に話しながら、俺は菜々と初めて会った日のことを思い出す。

 菜々は事故に遭いそうなところを助けたのが初対面だと思っているが、実はそうじゃない。彼女は覚えていないだろうけど、俺にとっては忘れられない出来事だ。

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