それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 あれは、希美の四十九日が過ぎた頃。高校受験を直前に控え、通っていた塾からの帰り道。俺は通行人とぶつかってカバンを落とし、中身をぶちまけてしまった。

 咄嗟に拾おうとした時、一冊の参考書が目に入った。希美の両親が「楓くんにもらってほしいの。あの子の分まで、受験頑張って」と渡してくれた、希美が使っていたボロボロの参考書だ。

 それを見た途端、彼女との思い出が走馬灯のように駆け巡った。

 希美は小学生の頃からうちの高校の制服に憧れていて、「あの制服を着て、イケメンの彼氏をゲットしたいの!」という理由で志望校を決定した。うちの高校を受験するには学力が足りていなかったため、俺が部活おわりに彼女の家で勉強を教えていたのだ。

『楓は高校に入ったらなにしたい?』
『別に。変わらず部活で弓道するくらいだろ』
『もっとやる気だして! だって高校生だよ? 青春だよ? 彼女作ればいいじゃん。楓めちゃくちゃモテるのに告白も全部断ってるから、私と付き合ってるんじゃないかって噂まで立ってるんだよ?』
『興味ない』

 兄妹のように育った希美にも、俺の能力のことは話さなかった。気を遣われるのは嫌だったし、学校でどう噂されようと、自分に恋愛なんてできるわけがないからどうでもよかった。

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