それでもキミと、愛にならない恋をしたい
その子は、小さく震える声でおそるおそる話しかけてきた。差し出された参考書が小刻みに震えていたけれど、それすらも苛立ちを煽る。
「……は? あんたになにがわかる」
「わ、私にはあなたの事情はわかりません。でも、大切な人を亡くすと辛いのは……よくわかります。その人のためにも一生懸命笑顔でいるべきです。ほら、ここ」
女の子は拾った参考書の最後のページを開き、俯いたままの俺の視線へ差し出した。
そこには、希美の字で『絶対一緒に合格してみせる!』と書かれている。俺は驚いて目を瞠った。そんなところに希美が書いていたなんて、全く気付いていなかった。
視線を上げると、彼女は嬉しそうに微笑んで頷いた。
まるで全てをわかってくれたような、優しく柔らかい微笑みだった。じわりと目頭が熱くなり、一筋の涙が溢れる。
俺が塞ぎ込んでいても、希美は生き返らない。希美は、俺が辛そうな顔をするのを望んでいない。
目の前の女の子の言葉が、ゆっくりと俺の心に沁みていく。あの事故からずっと胸につかえていたものが、涙と一緒に流れていった気がした。