それでもキミと、愛にならない恋をしたい
「余計なことを言いました。ごめんなさい」
女の子は俺の手を取り、参考書を持たせると、ぺこりと頭を下げて走り去っていった。
咄嗟のことで、手に触れられたのを振り払うこともできなかったが、彼女の心の声は、言葉にして俺に伝えてくれたもの以上に慈愛に満ちていた。
――――あなたが辛い経験から立ち直れますように。受験、頑張ってください。
そんな心の声に、俺はハッとして顔を上げた。
言葉と心が裏腹だなんて、子供の頃から嫌というほど知っている。何度も裏切られたような気分を味わい、傷ついた。
成長するにつれ本音と建前という言葉を学び、他人に期待せず、相手の本心を覗いてしまわないように、誰にも触れないよう気を張って生きてきた。
だけど、あの子だけは違った。