それでもキミと、愛にならない恋をしたい
田村先生は頷いて、静かにカーテンを閉めた。
昨夜見た夢のせいで、ほとんど眠れなかった。顔も声も知らない、存在さえ昨日知ったばかりの原口希美さんを、私はお母さんに重ねている。
お父さんが真央さんと再婚したのを、お母さんへの裏切りだと思っているのだから、楓先輩が私と付き合っていることもまた、恋人だった原口さんへの裏切りになる。
それに気付いた時、ショックで倒れそうだった。
お母さんを忘れたくない、忘れてほしくないと願う一方で、私自身は亡くなった原口さんの居場所に座ろうとしているのだ。
……ダメだ。今はなにも考えずに眠ろう。
熱を出すなんていつぶりだろう。こんな風に身体が弱っている時に考え事をすれば、ネガティブなことしか浮かばないのは仕方ない。
私はぎゅっと目を瞑り、眠気が訪れるのを待つ。自宅とは違うベッドシーツや枕の違和感で眠れないかもしれないと考えていたのはほんの数秒で、私はあっという間に睡魔に攫われた。