それでもキミと、愛にならない恋をしたい
誰かの気配を感じて、意識がゆっくりと覚醒の準備をしだす。目を開けて飛び込んできたのが私の部屋の天井じゃなかったから、ここが保健室だと思い出した。
眠る直前までまぶたに乗っていたホットタオルは耳の横でシーツを冷たく濡らしていて、ある程度の時間が経っているのだと推測できた。
「目、覚めた?」
心配そうな声に問いかけられ、ハッとして視線を彷徨わせる。カーテンの向こうから楓先輩が顔を覗かせていた。
「入ってもいい?」
本来ならベッドがあるカーテンの奥は養護教諭の先生しか入れない決まりだ。先輩がここまで入ってこれているのは、きっと田村先生が席を外しているからだろう。
本当はまだ先輩に会う心の準備ができていない。どんな顔をしたらいいのかわからないけれど、断ることもできずに小さく頷いた。
「体調悪くて保健室に行ったって聞いてビックリした。具合は?」
「……大丈夫、です」