それでもキミと、愛にならない恋をしたい

「菜々。話してるんだから、起きてるならせめて返事くらいしなさい。お父さんも真央も、どれだけ心配してると思ってるんだ」

 やめて。やめて。私は両手で顔を覆いながら心の中で訴え続ける。

「昨日も夕食を食べなかったでしょ。なにかあったのなら、お父さんたちに話して――――」
「ほっといて!」

 私は被っていた布団を勢いよく剥ぐと、上体を起こしてお父さんを睨みつけた。感情が限界を突破し、自分でも手がつけられない。

「お父さんに……お母さんを裏切って他の人を選んだお父さんに話すことなんてない!」

 私のあまりの剣幕にお父さんが絶句しているけれど、それでも止められなかった。

「お母さんの命日にも誕生日にもダリアの花束を贈るくせに、毎日仏壇に手を合わせてるくせに、それでも他の人と結婚するなんて。そんなの浮気となにが違うの? 二股じゃない!」
「菜々……」
「それとも、お母さんのことはもう好きじゃないの? 忘れちゃったの? 死んじゃった時だけ悲しんで、それで終わりで、あとは忘れて他の人と幸せになればそれでいいの? お父さんが他の人と幸せそうにしているのを見て、お母さんがどう思うのか考えたことはないの?」

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