それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 やっぱり私は、亡くなった恋人から楓先輩を奪うなんてできない。

 私がお父さんにお母さんを思い続けてほしいと願うのなら、自分だけ楓先輩と幸せになりたいだなんて、都合がよすぎる。そんなの、許されるはずがない。

 画面には絵文字もスタンプもない、温度が感じられない無機質な挨拶の文が並んでいる。

 初めて先輩にメッセージを送った時だって絵文字やスタンプを使ったりして、もう少し砕けた雰囲気だったのに。

 あの時はメッセージの返事に対して、すぐに電話をくれたんだ。驚いたけれど、その温かい優しさに急速に惹かれていった。

 少しずつ仲良くなって、誰よりも距離が近くなったと思った今、こんな風に他人行儀なメッセージを送るなんて。

 ごめんなさい、楓先輩……。

 でも私は、相手が亡くなったからといって他の人に想いを移すことを許せそうにありません。

 ぎゅっと目を閉じて送信マークをタップした途端、瞳に溜まっていた涙がぽたりとひと粒スマホ画面に落ちた。

< 198 / 272 >

この作品をシェア

pagetop