それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 けれど楓先輩を好きになり、彼に亡くなった恋人がいると発覚した今、『忘れられない人がいる人を好きになった』という同じ境遇になった。

 どうしてお父さんだったのか。私のお母さんに対してどう思っているのか。苛立ちや嫌みではなく、純粋に聞いてみたいと思った。

「真央さんはきれいだし、オシャレだし、優しくて料理上手だし、結婚は引く手あまただったはずなのに、どうして……お父さんを選んだんですか?」

 真央さんは唐突な私の質問に目を瞠り、口を引き結んで少し考える仕草をする。

「……私も、座ってもいいかな?」
「は、はい」
「菜々ちゃんのお部屋、初めて見た。可愛いし、すごくきれいにしてるね」

 テーブルを挟んだ反対側に正座しながら、真央さんはゆっくりと部屋の中を見渡す。そして机の上にある家族写真に目を止めると、眉尻を下げて困ったように微笑んだ。

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