それでもキミと、愛にならない恋をしたい
私は咄嗟に先輩との距離を詰め、膝の上で拳を握る彼の手に触れた。
心を読めるという秘密を打ち明けるのに、どれだけの勇気が必要だったか。その力のせいで、ご両親ともあまりいい関係ではないのも聞いている。観覧車の中でも拳を握りしめていたことを思い出し、このまま誤解させてはいけないと必死に大きく首を横に振って否定した。
「保健室で、酷い態度をとってごめんなさい。でも、先輩が怖いとか、嫌になったわけじゃないんです」
醜い感情を知られたくなかったから、先輩の手を拒否してしまった。けれどそれは先輩の力が怖いわけじゃなくて、先輩にどう思われるのか怖かっただけ。
心の内側を全部晒して、先輩に嫌われるのが怖かっただけ。
「先輩のせいじゃないです」
「じゃあ……どうして。俺が、菜々を嫌うわけないだろ」
先輩の手を離して、両手で自分の顔を覆った。顎がふわふわのマフラーに触れ、ふんわりと先輩の香りが漂ってくる。彼の優しさや言葉を嬉しいと思うたび、近くに感じるたび、同じだけ胸に罪悪感が降り積もる。