それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 あんな風に言い逃げしたのだから、怒るか呆れ果てて帰るだろうと思っていたのに、もう一度私の家に行っていたなんて。どうして……?

「菜々と話をしてたけど、逃げられちゃったって。駅の方に向かったから、きっとお母さんとの思い出の場所に行ってると思う、場所を教えてほしいって言うからさ。彼に僕が行くって宣言してきた」
「……仕事は?」
「さぼっちゃった」

 四十歳のおじさんが、えへ、と首をかしげたところで可愛くない。

 目を細めて睨むようにじっと見つめると、お父さんは苦笑しながらこちらにやって来て、私の隣に腰掛けた。

「娘と初めて口論になって落ち込んでいるところに、菜々の彼氏面したイケメンな男の子が家まで来たんだ。そりゃあショックで会社だって休むよ」
「……なにそれ」

 本当なら昨日酷いことを言ったのを謝らないといけないし、初めて再婚について本心をぶつけてしまったのもあって、気まずい対面になると思っていた。

< 224 / 272 >

この作品をシェア

pagetop