それでもキミと、愛にならない恋をしたい
「もしも僕がもう少し強い男だったら、菜々をこんな風に悩ませなかったのかもしれないね」
お父さんがもう一度「ごめんね」と言ったのに対し、私は首を横に振った。
再婚の話を聞いてからずっと、お母さんがどう思うかが心配だった。ふたりとも優しくて仲が良くて、私の自慢の両親だったからこそ、お父さんの『裏切り』が許せなかった。
でもそれは、ただ私の理想が崩れてしまうのが嫌だっただけなのかもしれない。お母さんの思いを勝手に代弁した気になって、肝心なところは逃げて、文句だけは一人前。駄々をこねる子供そのものだ。
私は空を見上げ、改めて空の向こう側にいるお母さんを想った。
今も見守ってくれているのかな。なにを思ってるのかな……。
「菜々」
「ん?」
「これを、このタイミングで渡すのは少しズルいかなって思うんだけどね。悔しいけれど、今な気がするから」
お父さんはよくわからないことを言いながら、一通の封筒を差し出した。