それでもキミと、愛にならない恋をしたい
私のせいで大切だった人への想いを薄れさせるのが怖かったし、他の誰かを想っている先輩を受け入れられる自信もなかった。理不尽に命を奪われた希美さんに嫉妬する醜い自分に耐えられなかった。
なにより、それを先輩に知られて嫌われるのが怖かった。
私が先輩から逃げた理由をひとつずつ吐き出していくのを、全部受け止めるようにじっと聞いてくれている。
「一方的に逃げるしかできない私に、先輩はきちんと話そうって言ってくれた。私に触れればなにを思ってるかわかるはずなのに、それをしなかった」
「そんなの当然だろ」
「当然だって思える優しい先輩が好きです。心の中を読まれるのは恥ずかしいし、少しだけ怖いと思うこともあるかもしれない。でもそれは先輩が怖いんじゃなくて、嫌われないか不安なだけで」
「嫌うわけがない」
私の言葉に被せるように、先輩が言った。
「素直で真っすぐで、思いやりがあって、でも臆病なところもあって、誰よりも可愛い。そんな菜々を嫌いになるわけがない」
「か、買いかぶり過ぎです……。心の中で嫌なことを考える日だってありますよ」
「わかってる。それで俺が菜々を嫌うことはないけど、聞かれたくないのなら絶対に触れない。この前みたいに触るなって言ってくれていい。だから、これからも一緒にいたい」