それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 ずっと他人と線を引いてきたという先輩が、私を選んでくれた。一緒にいたいと言ってくれた。

 それがなにより嬉しくて、私は何度も頷いた。

「私も、先輩と……ずっと一緒にいたいです」

 そう告げながら、ふとお母さんの手紙にあったフレーズを思い出した。

「私は、楓先輩と恋がしたいです」

 唐突に切り出した私の言葉に、楓先輩が首をかしげた。

「お母さんのように大切な人の幸せを願えるのが〝愛〟なんだとしたら、私はまだ愛を知らないんだと思います」

 自分よりも相手の幸せを願う気持ちはとても健気で、儚くて、強くて、美しい。お母さんの手紙を読んで、そう思った。

 大人になればわかるものなのか、限られた人にしかたどり着けないものなのか、私にはわからない。

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