それでもキミと、愛にならない恋をしたい
「だ、大丈夫……でしたか?」
具体的に聞いていいのかわからず、おそるおそる尋ねると、楓先輩が可笑しそうに笑った。
「大丈夫だったよ。実は三者面談の前に家で両親と話したんだ。菜々も頑張っただろ。だから俺もちゃんとしないとと思って」
薄暗い空間の中、ゆらゆらと揺れる水槽を眺めながら、先輩はある夢を語ってくれた。
「母親とはどうにも話にならなかったけど、父親とはちゃんと将来を見据えた話ができた。俺、医者になろうと思ってるんだ」
「お医者さん?」
「子供の頃から漠然と憧れがあったけど、人に触れられない俺には無理だって諦めてた。でも、やっぱり夢は捨てたくない。具体的には救命救急の仕事に就きたいと思ってる」
救命救急と聞いて、ふとある疑問が浮かんだ。
「それは……希美さんのことがあったから?」
「きっかけはそうかもしれない。でも、諦めたくないと思ったのは菜々のおかげ」
「私?」
「この力は人の嫌な部分を目の当たりにするばかりで、ろくなことがないと思ってた。子供の頃に大人の心の裏表を知りすぎたせいで、かなりスレてたんだと思う。でも菜々に出会って、そんな人ばかりじゃないって気付けた」