それでもキミと、愛にならない恋をしたい
先輩はそう言って私の顎に指をかけると、ゆっくりと顔を寄せてきた。
視界が先輩の端正な顔でいっぱいになり、あっと思った時には唇に柔らかいぬくもりが触れていた。
えっ、と声を上げることもできず、そのまま硬直する。
キス、してる。先輩と、初めてのキス……。
どうしよう。恥ずかしい、でも嬉しい。正真正銘、私のファーストキスだ。
ファーストキスが水族館だなんて、少女漫画みたいでロマンチック……と浸りかけたけれど、私はハッと我に返る。
待って……! 周りにたくさん人が……っ!
そう気付いた瞬間、ぬくもりが離れていった。止めていた息を思いっきり吸うと、目の前の楓先輩が大きな手で顔を覆いながら笑う。
「よかった、菜々も初めてで」
「せっ……先輩っ!」
こんな人の多いところで……っ! 誰かに見られていたらどうするの。