それでもキミと、愛にならない恋をしたい
私が左手で口元を覆ってじろりと上目遣いに睨むと、先輩が目を細めて柔らかく微笑んだ。
その表情は反則だ。うっとりと見惚れてしまう。
「ありがとう。菜々と出会えたから、自分に絶望せずに夢を追うかけようと思えた」
さっきの話の続きだと気付いた。そう言ってもらえて嬉しいけれど、私はなにもしていない。
「私こそ、先輩と出会えたから家族と向き合うことができました。将来の夢も見つけられた。私……」
――――楓先輩に出会えてよかった。
そう言うつもりだった唇は、再び塞がれた。
――――もうっ。だから人前ですっ!
きっと、どちらの言葉も繋いだ手から全部先輩に伝わっている。
これからもこの手を離さないまま、ずっと恋をしていよう。
Fin