それでもキミと、愛にならない恋をしたい
第二章
その日も十八時に図書室を出て、無駄にゆっくり歩いて帰宅した。
本当は英語の課題をしようと思ったのに、楓先輩とのやりとりを思い返してはひとり悶えて、なにも手につかなかった。
ずっと遠くで見ていただけの先輩と、連絡先を交換して、一緒にテスト勉強をする約束までしてしまった。
もちろんふたりきりじゃないし、目的は京ちゃんと日野先輩の距離を縮めるためだけど、それでもドキドキと胸が高鳴って仕方ない。どう頑張っても頬が緩み、つい舞い上がってしまいそう。
けれど、家が近付いてくると徐々にその気持ちは萎んでいき、さっきまでとは違った意味で息苦しくなってくる。
「ただいま」
玄関の扉を開けながらそう言うのは、幼い頃からの習慣。家に誰がいようがいまいが、必ず帰ってきたらただいまと言う。
そのまま目の前の階段をのぼって二階に上がってしまえば、誰とも会わずに自分の部屋へ行けるけど、そんなことをするのは反抗期の子供っぽい気がして一度もしたことがない。
階段の下にスクールバッグを置いて洗面所へ行き、手洗いとうがいをしてリビングに顔を出すと、栗色の柔らかそうな髪をシュシュで纏め、シンプルなエプロンをつけた女性がこちらを見て微笑んだ。