それでもキミと、愛にならない恋をしたい
ひたすらにそう祈り続けたけれど、願いが聞き届けられることはなく、母は天国の住人となった。
お母さんはハッキリ物を言うサバサバした性格で、儚げな美人顔に似合わず豪快な笑い方をする人だった。
友達も多かったし、母の周りはいつも明るくて、まるで向日葵のような人だと思う。
だからきっと、天国でもたくさんの人に囲まれて幸せに暮らしているに違いない。大好きだったコーヒーを飲みながら、きっと私たちを見守ってくれているはずだ。
「洋司さん、今日は遅くなるんだって。先に夕飯食べちゃおうか」
「……うん。カバン置いて着替えてきます」
洋司さん、と鈴の鳴るような声で父を呼ぶ彼女がふわりと微笑む。なるべく直視しないようにして踵を返した。
そして、すぐに罪悪感に胸が軋む。
今の、感じ悪かったかな。ふたりきりの夕食だと知って、少し声が低くなってしまったかもしれない。
リビングにはキッチンから漂うデミグラスソースのいい匂いが充満していて、否が応でも食欲をそそられる。