それでもキミと、愛にならない恋をしたい

お値段はビックリするほど可愛くなかったけど、ふたりともめちゃくちゃ気に入って奮発した。

家に帰るのが苦痛で、家族で過ごすのが息苦しい私は、この部屋着で少しでも気分が上がればいいと思って買ってみたものの、効果は芳しくない。

もちろん着れば可愛いし、京ちゃんとお揃いなんだから嬉しくないはずがないけど、この服を着たところで、どうしても一階に下りる足取りは重い。

机に置いてある写真立てに視線を移すと、若い頃のお父さんと、病気が発覚する前のお母さん、そして小学二年生になったばかりの私がイルカのぬいぐるみを抱いて、満面の笑みでこっちを見ている。

水族館の大きな水槽をバックに撮られたこの写真が、三人で撮った最後の家族写真。お母さんを忘れたくなくて、一番目につく場所に置いてある。

この数カ月後、健康診断で癌が見つかり、一年後には遺影のための写真を選ばなくてはならなかった。

「ただいま。ご飯食べてくるね」

写真の中の母に声をかけ、脱いだ制服のシャツを持ってゆっくりした足取りで一階に降りる。シャツを洗濯物に出してから再びリビングへ向かった。

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