それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 だからって本来ならお母さんがいたはずの場所に、他の人をすげ替えるみたいな真似をしたくない。そんなの、お母さんを忘れていないと言いながら再婚したお父さんと同じみたいで、考えるだけで息が苦しい。

 私はプリントを二つ折りにしてさっさとバッグにしまい込み、息を大きく吸い込んだ。

 いつもそう。お父さんの再婚のことを考え出すと、自分でも感情の制御が難しくて、心臓が引き攣るように痛んで苦しくなる。

「菜々」

 胸に手を当てて何度も深呼吸をしていると、後ろからスクールバッグを持った京ちゃんに声をかけられた。

「もう放課後になっちゃったね。私もドキドキしてるけど、菜々も深呼吸しなくちゃいけないほど緊張してるの? 約束の時間まであと一時間だもんね」

 本当は三者面談について考えていただけだけど、京ちゃんはこのあとの一大イベントのせいで緊張しているように見えたらしい。私は曖昧に微笑んで頷いた。

 実際、先輩たちとの約束まであと一時間と聞いたら、徐々に胸の鼓動がバクバクと速さを増していく。

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