それでもキミと、愛にならない恋をしたい
ふたりでトイレに寄り、京ちゃんがバッグから携帯用のコテを取り出す。いつもの高い位置で結んだポニーテールの毛先を巻き直し、後れ毛もふんわりと癖づけてスタイリング剤を馴染ませていく。
自分の支度が終わると、次は私の髪を巻いてくれる。
「菜々の髪、サラサラで真っ直ぐだね」
「でも真っ黒だし、太いし、せっかく巻いてくれてもすぐに戻っちゃうかも。京ちゃんのゆるふわに憧れる」
「じゃあ緩く編み込んじゃうよ。ちゃんとゆるふわにしてあげるから任せて」
全体をふんわりと巻き終わると、スタイリング剤を揉み込んでサイドの髪から手際よく編み込みゴムで止める。それを何度か繰り返し、後ろでねじり、ピンをいろんな角度から何本も刺していく。
まるで本物の美容師のように手際よく進めていく鏡の中の京ちゃんをじっと見つめていると、照れくさそうに笑った。
「私、美容師になるのが夢なんだよね。こうやって女の子を可愛く変身させられる仕事に、子供の頃からずっと憧れてたの」
「ぴったりだと思う。京ちゃんおしゃれだし、今も本物の美容師さんみたいって思ってたの」
顔まわりの髪の毛までくるくると巻きながら、京ちゃんが苦笑する。
「ありがと。道は険しいけどね。うちの父親、役所で働いてる公務員だからさ。本当は専門学校に行きたいけど、大学に行けって反対してきそう。今度の三者面談が憂鬱だよ」