財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 千遥にはなにをどうする気なのか、さっぱりわからなかった。
 彼のスマホが鳴り、彼はいったん外に出る。戻ってくるとブランドの紙袋を手に持っていた。
「これを着てくれ。プレゼントだ」
 取り出されたのは高そうな女性もののスーツ一式だった。
「受け取れません」
「では、貸すだけだ。それならいいだろう?」
 少し迷った後、彼女は受け取った。昨日から着たままのくしゃくしゃの服は、やはり恥ずかしかった。
 別室で着替えて出てくると、彼はまたふわんと顔全体で笑った。
 まるでラブラドール・レトリーバーだ、と千遥は思った。いつかネットでみたその犬は、御主人様に遊んでもらって、うれしそうに顔全体で笑っていた。
「では行こうか」
「どこへ」
「弁護士事務所だ」
 千遥は目を丸くした。そんな彼女を見て、彼はまた笑顔になった。ふわん、とした空気に包まれた。千遥は心が和む自分に戸惑った。

 店を出ると白い外車が止まっていた。
 天使像のような特徴的なエンブレムがついている。ノールスロイスだ。
 運転手らしき人物がそばに立っていて、海里を見るとさっとドアを開けた。
 海里は迷いなく乗り込む。
 来たときと違う車だ、と千遥は目を丸くした。
「君と乗るならこっちかな、と思い直したんだけど、嫌だった?」
 ふと見ると、昨日の借金取りの男たちが近づいて来ていた。
 千遥は慌てて乗り込んだ。
「早く行きましょう」
 千遥が言うと、運転手が静かに車を発進させた。

 彼が連れてきた弁護士事務所は横浜の大きなビルの中にあった。
 千遥はびくびくしながら彼についていく。
 彼は臆する様子もなく慣れた様子でスタスタ歩いていった。
 受付で名を告げるとすぐに応接室へ案内された。
 大きなソファに座って弁護士を待つ。
 ほどなくして年配の男性が入ってきた。
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