財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 海里が立ち上がり、慌てて千遥も立ち上がる。
「お久しぶりです、海里さん。緊急の用件だとか」
 握手をしながら彼は言った。
「そうです。こちら入鹿千遥さん。俺の婚約者——」
 と言ったが千遥に睨まれて、
「候補です」
 と付け足した。
「こちらは弁護士の西島さん」
「よろしくおねがいします」
 千遥は頭を下げた。
「ざっくり説明は聞いています。大変でしたね。おかけください」
 促されて、千遥たちはソファに腰掛ける。
「書類を拝見したいのですが」
 千遥はコピーを渡した。西島はそれをすごい速さで読んでいく。
「サインは私の字に似ていますが、違います。まったく覚えがないんです」
「ざっと見た限り、文面に問題はないので法的には有効のように見えますね。無効にする裁判を起こしても、時間がかかります。お礼の手紙というのが巧妙ですね」
「だから、俺は君の会社を買うことにした」
 千遥は海里の顔を見た。彼はふわんと笑って彼女を見る。
「借金は会社のものだ。会社が別人の手に渡れば君が困る必要はなくなる。会社を売買したときの税金の処理もわかってないだろう」
「でも……」
「俺を信じてくれ」
 昨日出会ったばかりの人を信じろと言われても。
「彼は信用のできる人ですよ」
 弁護士がにこやかに言う。
 この人なんてさっきあったばかりだ。弁護士というのも彼が言っているだけで、信用できるかわからない。
「……なかなか用心深い方のようだ。こんな方が騙されるとは」
「元・恋人が騙したんだそうですよ。まったく腹立たしい」
 なんで言ってしまうのか。
 ああ、と弁護士は納得したようだが、千遥は傷ついて彼を軽くにらんだ。
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