財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
「もう少し言葉を選んでよ」
「だが、事実だ」
「あなただって婚約者に捨てられたって言われたら嫌でしょ」
 一瞬ひるむが、すぐに彼は立て直し、にやりと笑う。
「過去の話だ」
 千遥はむしゃくしゃしてむっつりと黙った。
 ドアがノックされ、若い男性が弁護士に書類を渡して出ていった。目を通したあと、海里にそれを渡す。
 海里も目を通し、サインをした。
「あとは君がサインをしたら会社は俺のものだ。それとも別の、君が探した弁護士のところへ行くか? アポも難しいと思うが、確認してみろ、それくらい待つから」
 ためらいながら、千遥は目星をつけておいた弁護士事務所に電話をいれる。どこも当日の予約はできず、早くて1週間後と言われた。
「私の弁護士番号を日弁連のサイトで確認してみてください。私が本物の弁護士であることはおわかりいただけるでしょう」
 自分のスマホでサイトを検索して彼に言われた番号を入れる。と、彼の名前が出てきた。
「彼の申し出を逃して裁判もしないとなれば、自力での返済、あるいは民事再生を申請して会社を立て直すか……」
「私に会社を運営する力なんてありません」
 絶望とともに千遥は言う。
「だから私に任せて」
 彼はふわん、と笑った。

 結局、千遥は書類にサインをした。
「これで会社は私のものだ。君には雇われ店長として働いてもらう。給料は相場で、あとは能力しだいで上げていく」
 そこはシビアなんだ、と千遥は苦笑して指定された給料を見て驚いた。今まで安かったらしい。
 雇用契約書などのいろいろを渡され、それらにもサインをする。
「これでひとまずは大丈夫だな」
「ありがとうございます、真道さん」
 千遥は深々とお辞儀をした。
「海里と呼べ。そうでなければ返事をしない」
 子供か、と内心でツッコミをいれつつ、めんどうなので合わせる。
「海里さん」
「なんだ」
 ふわん、と彼は笑った。大型犬、とまた思った。
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