財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
「ありがとうございました」
 もう一度頭を下げる。
「愛しい人の役に立てて良かった」
 海里の言葉に、一瞬どきっとした。
「もう今日は用事はないな。俺とデートしよう」
 わくわくした顔で彼は言う。
「ごめんなさい、家に帰りたいです」
 答えると、彼はしょんぼりした。
 犬みたいだ、とまた千遥は思った。御主人様に遊んでもらえなくて悲しそうにしている犬。
 なんだか頭を撫でてあげたい衝動にかられるが、必死でがまんする。
「じゃあせめて送らせて」
 断ることができずに頷いた。
 彼はうれしそうににこっと笑い、千遥の心がふわんと浮き上がった。

 彼はノールスロイスで家まで送ってくれた。
 普通の住宅街に高級外車のギャップがすごかった。
 安いアパートの前に、車は止まる。
 彼女が降りると、彼もなぜか降りてきた。
「部屋まで送るから」
 断りきれずに了承する。
 ドアに鍵をさすと、違和感があった。
「開いてる?」
 嫌な予感がしてそっとドアを開ける。
 部屋は荒らされていた。
「……!」
「意外にワイルドなんだね」
 覗いた海里が言う。
「……泥棒です!」
 海里は眉を上げたあと、さっとスマホを取り出した。わなわなと震える千遥の横で、彼は冷静に通報する。
 駆けつけた警察官は、何がなくなったのか、いつから家を開けていたのかなど詳細に千遥にたずねた。千遥は確認しながらそれに答えていった。
「なくなったのは通帳だけでした。預金は昨日のうちに引き出されているのがわかっています。昨日はいろいろあって家に帰れてなくて、さっき帰ったら部屋が荒らされていました」
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