財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
「鍵をこじあけた様子はないですね。合鍵を誰かに渡していますか?」
 尋ねられて、千遥は青ざめる。
「彼氏……いえ、元カレに……」
 鍵をあずけたまま、まだ返してもらっていなかった。
 警察官に言われるがままに彼の連絡先を教える。
 きっと犯人は裕太だ。だが、彼の犯行だと証明できるものはないだろう。
 こんなことをする人だとは思わなかった。
 愛し合っていると思ったのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
 震える手で被害届を書いた。ただの空き巣であればいいと思う反面、もしこれで裕太がつかまったらと思うと怖かった。
 鑑識だのなんだのがわんさかきて、千遥は一人で立っていられなかった。海里はずっと彼女を支え、一緒にいてくれた。
 警察官が引き上げると、千遥は力抜けて崩れそうになった。が、海里がぐっと抱きとめた。
「ごめんなさい」
「ショックだよね。だけど、このありさまでは中でも休めないね」
 荒らされたあとを、警察が調べるためにいろいろひっくり返していった。
「必要なものだけ持って、うちにおいで」
 海里は優しく千遥に囁いた。
「あの男がいかがわしい男に合鍵を売り渡しているかもしれない」
 千遥は顔を引きつらせた。
「さすがにそんなこと」
「しないとは言えないだろう?」
「でも……」
「うちには妹も住み込みの家政婦もいる。君が悲鳴をあげたら彼女らがすぐに駆けつける。だから俺は君の嫌がることなんてできやしないよ」
 ふわん、とまた彼は笑った。
 千遥は泣きそうになりながら頷いた。

 元カレの家を知っているか、と海里は尋ねた。
 もちろん知っている。彼女が案内して、二人で訪ねた。
 が、マンションは解約されていて、もぬけのからだった。
「新恋人とやらの家にも行ってみよう。武井美織、だな?」
 千遥が戸惑って彼を見た。
「書類を見たから彼女の住所は覚えている」
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