財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 美織のアパートに行くが、やはり誰もいなかった。
「計画的にことを運んだな。すぐ近くにいて気が付かなかったのか」
「忙しくて」
 裕太も美織も仕事を千遥に押し付けがちだった。
「忙しくさせて目をくらませたのか。たちが悪いな」
 単に浮気に忙しくて千遥に仕事を押し付けただけだろうが、言うのも嫌で千遥は頷いた。

 翌日はまた彼と一緒に出勤になった。
 新社長として彼を紹介するためだった。
 シェフやバイトたちは驚いたが、給料や勤務体制は変わらないと聞いて一応の安堵を見せた。
「月曜に借金取りがきてたもんね」
「怖かったよね」
「何時頃だ?」
 海里はバイトに尋ねる。
「9時前、閉店直前です」
「9時までなら合法だが……防犯カメラは?」
「こちらに」
 千遥が案内すると、海里はデータを確認し始めた。
 千遥は店長として店を仕切った。もともと裕太が営業などでいないときは彼女が店をまわしていたし、仕事自体はなんとかなりそうだ。
「千遥さんが店長になってくれてよかったです」
 こっそり言ってくれるバイトもいて、千遥はほっとした。

 海里は挨拶だけですぐに帰ると思っていたのに、店内に残って千遥を見つめていた。
 視線を感じて振り返ると必ず彼と目が合い、そのたびに彼はにっこりと微笑んだ。
 千遥は気まずくて目をそらすのだが、彼はかまわずずっと眺めている。
「店長、見張られてない?」
「かわいそう」
 バイトのひそひそ話が聞こえるに至り、千遥は諦めて海里に話しかけた。
「バイトが不安になるので、見るのやめてください」
「愛しい人の働く姿を見たいだけなのに」
「からかうのやめてください」
「本気だ。俺のことは気にするな。いや、気にしてくれ」
「仕事はどうしたんですか」
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