財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
「仕事中だ。ただ君を見てるわけじゃない、店の経営方針を考えていた。社長なんだから」
 そう言われると、もう反論はできなかった。
「邪魔だけはしないでくださいね」
「大丈夫だ」
 海里は笑顔で受けあったが、千遥には不安しかなかった。

 閉店と同時に、花束を持った男性が入ってきた。
 バイトたちはざわめき、千遥は顔をしかめた。
 男性から花束を受け取った海里は、そのまま千遥を呼ぶ。
 嫌な予感とともに彼の前に行く。
「店長就任おめでとう!」
 彼はそう言って花束を差し出した。
 おお、とバイトから拍手が起きた。
 千遥は動揺し、思わず花束を受け取った。恥ずかしくて花に顔を埋める。いい匂いが鼻腔に満ち、思いがけずどきどきした。
「ありがとう」
「喜んでもらえてよかった」
 顔をあげると、彼がふわんと笑った。
 いつもながら大型犬のような笑顔だ。かわいい、と思ってしまって、また花に顔を埋めた。
「みんなも、ありがとう」
 振り返ってお礼を言うと、急に後ろから抱きしめられた。
「みんな、彼女を困らせたら承知しないからな」
 女の子からきゃー! っと黄色い悲鳴が上がる。男性店員やシェフは顔を見合わせて笑う。
「店長がモテてる」
「あの人御曹司でしょ」
「玉の輿じゃん!」
 ざわざわと笑顔でバイトたちがさざめきあう。
「なにするんですか!」
 千遥が怒るが、海里は彼女を離さない。
「店長、おめでとうございます!」
「式には呼んでくださいね!」
 バイトたちに口々に言われて、千遥はがっくりと肩を落とした。

 それからも彼は毎日彼女と出勤し、退勤した。
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