財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜

「ノールスロイスの運転手、元F1ドライバーだよ」
「すげえ」
「毎日一緒に出勤だよね」
「一緒に住んでるって社長が言ってた」
「前の店長は？」
「事務と浮気してたから、とっくに破局でしょ」
　バイトのこそこそ話は、それでもしっかり千遥の耳に届く。
　裕太と美織との関係を知らなかったのは千遥だけだったらしい。
　順調に外堀を埋められている気もして、千遥はため息をついた。
　彼は店の奥に座り、小さなノートパソコンで何かをしている。大きな手であんな小さなキーボードをよく打てるものだな、と感心してしまった。
　作業をしてないときは千遥を眺めている。
　何かと目が合うので落ち着かない。たまらなくなって海里に文句を言った。
「なんで毎日ここに？　暇なんですか」
「あなたに会いたいから。仕事はちゃんとやってるよ」
　ふと画面を見ると、店の出入金のデータがまとめられたものだった。
「なんだ？」
　視線に気がついた彼が聞いてくる。
「なんでもないです」
「俺に見とれてたとか」
「違います」
「店長はずっと見てましたよ」
　にやにやとバイトがチクる。
「ちょっと！」
　きゃー！　と笑いながらバイトが逃げる。
　子供じゃないんだから、とまた肩を落とした。
　
　次の火曜日のことだった。
「お休みデスね。一緒におでかけしましょう」
　朝食のときに海恋に言われた。
「兄はあなたのおかげで元気になりました。お礼がしたいです」
「お礼なんて。助けてもらったのは私なのに」
「出かけるなら俺が行く。まだデートもできてない」
「イヤよ、私が彼女とでかけたいんだから」