財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜

「駄目だ」
「ノー！」
　なぜか急に英語になって彼女は海里に文句を言い始めた。海里も英語で返す。
「あの、落ち着いて」
　おろおろと声をかけると、二人は怒りに満ちた顔をこちらに向けた。
「三人で行きましょう……」
　気圧されて千遥が言うと、二人は顔を見合わせた。
「仕方ないデスね」
「妥協してやろう」
　ケンカがおさまり、千遥はホッとした。
　が、なんだか振り回されてばかりな気がして憂鬱な気持ちにもなった。
「驚かせてすまない。妹はインターナショナルスクールに通っていたから興奮すると英語になるんだ」
「すごいですね」
　さすがお金持ちだ。
　たまにイントネーションがおかしくなるのはそのせいか、と納得した。
「すごくないわよ。兄も通ってたし。私は顔が濃いでしょう？　周りから濃い濃いって言われ続けて嫌になってインターにしたの。千遥さんみたいなすっきりした美人になりたかった」
　言われ慣れてないことを言われて戸惑った。
「私なんて」
「そういうの良くないわ。今日は私が思い切りあなたの良さを出して上げる」
　
　白いノールスロイスでデパートに連れて行かれた。
　店内を見てしばらくしたら、年配の店員と中年の店員数人が早足でやってきてお辞儀した。
「いらっしゃいませ、ご来店とは存ぜず失礼いたしました」
「気を使わせたくなかったから連絡しなかった。かえって迷惑なら申し訳ない」
「お気遣いありがとうございます」
　店員が深々と頭を下げた。
　年配の店員はすぐに下がり、数人が残った。
「今日は店内を見たいの。サロンは行かないわ」
「かしこまりました」
　彼女を先頭にして、一団は店内を歩く。
　なにこれ、もしかしてこの人たち噂に聞いた外商？
　戸惑いながら歩くと、海里が手を繋いできた。
　思わず振りほどく。