財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
「さみしいなあ」
 海里は苦笑してまた歩く。
 油断も隙もない、と千遥は海恋の隣に並び直す。
 海恋はにこっと笑った。とたんに空気がふわっとした。海里に似た笑顔だ、と千遥はなんだかホッとした。
「まずは服ね。それからごはん。和食がいいわ」
 海恋が言うと、店員の一人がさっと離れてスマホでどこかへ連絡する。
 海恋は有無を言わさず千遥のために服を買い漁り、化粧品を買い、アクセサリーを買って着飾らせた。海里はにこにことその様子を見守った。
 着飾った自分は別人のようで、千遥は困惑した。
「いつもはかわいいが、今日は美人って感じだな」
「でしょう?」
 海恋は鼻を高くして海里に答えた。
「妹はこれでもモデルでね。ファッションには詳しい」
「これでもって余分」
「納得しました。とてもおきれいですから」
「ありがとう」
 海恋がまたにこっと笑った。それだけで空気が華やいだ。
 昼食は最上階にある大きな窓のある和風レストランの個室で、料理人が目の前で天ぷらを揚げてくれた。出来立ては熱くて、やけどしそうになりながら美味しくいただいた。
 塩だけで食べるのだが、紅塩だのわさび塩だの種類があって、わくわくした。さくっとした歯ごたえに素材のジューシーさが合っていて、油ものなのにどれだけでも食べられそうだった。
「あとは……何かしたいことある?」
 デザートの抹茶アイスを食べながら、海恋は千遥に聞いた。
「家を探したいです」
 本当は今日、探しに行くつもりだった。
「家を買うの?」
「買いません。アパートを借りるんです」
 慌てて訂正した。金持ちだと発想が違うらしい。
「よくわからないけど私も一緒に行くわ」
「俺も行く」
 なんだかまた嫌な予感がして、千遥は黙ってアイスをすくった。口に入れるとほんのり苦くて、すぐに甘く溶けていった。
< 19 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop