財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
「すみません、兄が人違いをシているようで」
 女に謝られ、千遥はひきつりながら頷いた。
 彼女は懸命に男を引き剥がそうとするが、男はいっこうに離れない。
「ごめんなさい、無理……」
「こっちが無理!」
 女のギブアップに、千遥は言い返す。
「お願いします、家まで一緒に来てください。ちゃんと送りますから!」
 結局、千遥は根負けした。

 気がついたら朝だった。
 いつもと違う景色が見えて、ぼんやりと眺める。
 ふと横を見ると、男性の顔があった。
 はあ!?
 驚いてとびすさる。と、ベッドから落ちた。
 痛みにうめきながら自分を確認する。しわくちゃになっていたが服は着ていた。
 ぼんやりと記憶が蘇ってくる。
 昨日はさんざんだった。
 とどめのように男に抱きつかれ、妹という人物に頼まれて彼らの住む豪邸に来た。
 妹と二人で彼をベッドに運ぶと、彼はすぐに眠りについた。だが、千遥の手を離してくれなかった。
 泣きながら眠るなんて子供みたい。
 涙のあとのついた彼の顔を見ていたら、いつの間にか千遥も寝てしまったのだった。
 どうしよう、と思ったときに、ドアがノックされた。
「どうぞ」
 答えると、ドアが開いて妹が顔をだした。
「泊まってもらって、すみません」
 会うなり彼女は謝った。
「気にしないでください。もう帰りますから」
「待ってください」
 彼女は通せんぼして千遥を止める。
「しばらくいてくださいませんか」
「そんなわけにはいきません」
 早く弁護士にアポをとって、対策を練らなくてはならない。
「兄は一年前に元婚約者に捨てられたんデス。それからずっと食欲もなくて不眠にもなって。今日、ようやく久しぶりにぐっすり眠ってます」
 ベッドを振り返る。確かに彼はよく眠っていた。
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