財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜

「ごめん」
「大丈夫だよ」
　ふわん、と彼は笑った。
　落ち着かずにそわそわした。いつも以上に彼との距離が近い気がして胸がどきどきした。
　テレビを見て内容について話をするが、上の空になってしまう。
　ふいにチャイムが鳴った。
「こんな時間に」
「俺が出る」
　彼は玄関に行くと荷物を持って帰ってきた。
「着替えるから向こう向いてて」
　顔をそらしてから、なんで私の部屋で、と納得いかない気持ちが沸いて来た。
　もういいよ、と言われて目を向けると、スエットにどてらを着た彼がいた。中のスエットにもどてらにも高級ブランドのマークが入っているが、本当に正規品なのだろうか。
「こたつの正装、似合う？」
　唖然として返事ができなかった。
　その姿でこたつに入り、べったりと頬をテーブルに乗せる。その顔は幸せそうだった。
「……だから、なんで私の部屋で」
「あ、みかんも買えばよかった」
「明日でいいじゃない」
「じゃあ明日、買って持ってくるね」
　にこっと彼は笑う。
「そうじゃない」
　千遥は頭を抱えた。
「これじゃ逆に暑いなあ」
　スマホをぽちぽちする。
　しばらくすると、またチャイムが鳴った。
　また玄関に行き、戻ってきた彼は棒アイスを彼女に渡した。国民的人気のソーダ味のアイスキャンディーだ。
　千遥は受け取ったそれを黙って冷凍庫に入れた。
「食べないんだ？」
「こんな時間に食べられません」
「一緒に食べたかったな」
　彼はしょんぼりとアイスをかじる。
　なんだか罪悪感がわいてきた。