財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 私は悪くないのに。なんで罪悪感を覚えなくてはならないのか。
 いつも勝手に決めて、何も教えてくれなくて。
 次第にむかむかと怒りが沸いて来た。
「……帰って」
 千遥はキッと彼をにらみつけた。
 アイスを口に、きょとんと彼は千遥を見る。
「食べてからでもいい?」
「今すぐ帰って!」
 急に怒り出した千遥を海里は黙って見つめる。
「わかった」
 沈んだ声に、胸がずきっと痛んだ。
 彼はこたつを出てスーツを持って立ち上がる。まとめた段ボールも手に持った。
「おやすみ」
 海里はアイスをくわえて部屋を出た。
 彼のしょんぼりした顔が目に焼き付いて離れなかった。

 翌日、千遥は海里が迎えに来るより先に家を出た。
 久しぶりに自分の車での出勤になった。
 彼は怒るだろうか。悲しむだろうか。
 そう思ってそわそわしていたが、彼はいつもと変わらないにこやかさで出勤してきた。
 仕事が始まると、彼は千遥を見ることなくノートパソコンばかりを見ていた。
 はあ、とため息をついた千遥に、バイトがそっと囁く。
「ケンカしたんですか?」
「そういうんじゃないわ」
 一方的に千遥が怒っているだけだ。何について怒っているのか、自分でもよくわからない。彼はなおさらわからないだろう。
 彼はその日、彼女の部屋に来なかった。

 翌日、彼は出勤してこなかった。
 そのことについて、彼女には連絡がなかった。
 連絡先は教えられているが、連絡する気にはなれなかった。
 そもそも彼は店員ではない。社長であり、本業――といっていいのかわからないが――は別会社の専務だ。
 憂鬱な気持ちで仕事をこなした夜、一人の女性が赤ちゃんを抱いて入ってきた。
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