財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 時刻は八時。
 マリーナの海上バースに停められた船にはこの時期イルミネーションが施されている。それを見に来るカップルや家族連れはいるが、女性が子連れで来るには不自然な時間だった。街中ならともかく、ここは駅からも遠いマリーナだ。
 彼女はコーヒーだけを飲んで帰っていった。
「なんだか店長に似ている人でしたね」
「そう?」
「ぜんぜん似てないけど、似てるんです」
 バイトは不思議そうにそう言った。
 なんだか嫌な予感がした。

 翌日も海里は店に現れず、女性が夜遅くにコーヒーを飲みに来た。
 さらに翌日、女性はまた現れた。
 三日目ともなると千遥は不吉なものを感じて仕方なかった。
 さらに来てほしくない人物が来たのは、オーダーストップの札を出したあとだった。
 いつぞやの借金取りの二人組だった。一人はまたスーツを着崩し、一人は派手な柄シャツを着ていた。
「よお、また会ったな」
 スーツを着崩した男がにやにやと笑う。
「借金はもうないはずです!」
 会社はもう海里のものだ。実際、あれ以来今まで督促は一度もなかった。
「あるんだよ」
 彼は懐から借用書を取出した。今度は千遥の個人名義の借金だった。
「私は一度も借りてないのに」
 額面は500万だった。
 サインの筆跡はまた千遥のものによく似ていた。
「何の用だ」
 冷たい声が降ってきた。
 顔をあげると、険しい顔をした海里がそこにいた。いつもの柔和さからは想像できない冷たさだった。
「私の店ににつかわしくない風体だな」
「なんだてめえ!」
「まあ、落ち着け」
 スーツが柄シャツをなだめる。
< 26 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop