財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
「こちらのお姉さんの個人的な話でね。あなたには話せないんですよ」
 海里は目を細めた。
「金の話なら俺が聞く」
「借金の話は本人にしか話せないっていう法律があるんだよ、バーカ」
 柄シャツがバカにしたように言う。暴露していることに気が付いていないようだ。
「行くぞ。……また来るからな」
 笑うようにスーツが言い、二人は店を出た。
 顔をしかめて千遥を見た海里は、次に驚愕して一点を見つめた。
 視線を追った千遥は、そこに赤ん坊をつれた女性がいるのを見た。
「……茉優!」
 声が届いたのか、女性ははっと顔を上げ、次いで、慌てるように店を出た。
 海里が彼女を追いかける。
 思わず千遥も追いかけた。
 女は小走りに走るが、赤ん坊を抱えているから遅い。ゆさぶられたせいか、赤ん坊がぎゃあぎゃあと泣き始めた。
 千遥たちはすぐに追いついた。
「茉優、今までどこへ!?」
 まゆ、と千遥はその名を心で呟く。
 二階堂茉優。海里の元婚約者だった。
「地方にいたの」
「その赤ちゃんは……まさか?」
 茉優は黙りこむ。
「名前は? 何歳?」
「タイガよ。大きな海と書いて大海。一歳よ」
「かわいいな」
 と彼は赤ちゃんを抱く。ゆっくりと落ち着かせるように揺らすと、赤ん坊は泣き止んだ。
「ごめんなさい、私はあなたの隣にふさわしくないと思って身を引いたけど、やっぱりあなたを忘れられなかったの。ちょっとだけ、遠くからでいい、あなたを見たくて来てしまったの」
 茉優は静かに涙を流した。
「そうか」
 海里の声は優しかった。
 ああ終わった。
 千遥の胸に鋭い痛みが走った。
 海里の婚約者が子供を連れて戻った。話の流れからして、彼の子供だ。
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