財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 その考えが甘かったと知るのは、夜、帰ってからだった。
 最低限の荷物を持って、彼女は車ごと消えていた。
 彼や海恋が買ったもの、作り直して彼女に渡したものは、すべて残されていた。
 慌てて警備員に確認すると、彼女は昼間に一度戻り、トランクに荷物をつめて車で出発したという。警備員はアパートの警備をするのが仕事なので、彼女を止めることはなかった。
 海里は焦った。
 彼女が彼の口説き文句を信じていないのはわかっていた。が、徐々に心を開いてくれていると思っていた。文句を言いながらも、いつも彼のわがままにつきあってくれていたから。
 玄関チャイムが鳴り、海里は慌ててドアを開ける。
「千遥さん!?」
 そこにいたのは海恋だった。
「なんだお前か」
 がっかりしながら部屋に上げる。
「せっかく来てあげたのに」
「千遥さんが消えた。なにか知らないか」
「私も連絡とれなくなって様子を見に来たの。なにかしたの?」
 言われて、海里は眉を寄せる。こたつのことを言ったら、ずるい、と怒られそうだ。
「なにもしてない」
「それがダメだったんじゃない?」
「なにがなんでも俺を悪者にするよな」
 チャイムがまた鳴った。今度こそ、と出るとそこには茉優がいた。
「どうしてここに」
「店長さんが教えてくれたの。あなたと私は一緒にいるべきだって」
 赤ちゃんを抱えて、彼女は目に涙を浮かべて言う。
 海里は渋面を浮かべて彼女を見た。千遥がそんなことをするとは思えない。そもそも連絡先を知っているのかどうか。
「茉優さん!?」
 海恋の驚きが響いた。
「久しぶり」
 茉優は懐かしそうに微笑した。
「あなたの姪よ。抱いてあげて」
「姪!?」
 声を上げたあと、海恋は軽蔑の目で海里を見た。
「逃げられるはずだわ」
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