財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 海里は何も言えずに黙って赤ちゃんを見た。
 名は大海だと紹介された。男の名前ではないのか。姪とはどういうことか。
「お願い、この子のために部屋に入れてくれない? 私はいいの、だけど……」
「ホテルを取ろう。今夜はそちらに泊ってくれ」
「そんな、悪いわ」
「頼むからそうしてくれ。また連絡する」
 海里はタクシーを呼び、彼女を乗せた。
 駐車場においてあるノールスロイスは使わなかった。
 待つ間に、海恋はふと疑問に思って茉優に聞く。
「マザーズバッグとか持たないの? 知り合いのママさんはいつも大きな荷物だったけど」
 茉優は小さなバッグしかもっていなかった。
「荷物はあずけてあるの」
 迎えに来たタクシーに乗り込むとき、茉優は切なそうに微笑し、涙ぐんだ。
「ありがとう。本当なら、こんなに良くしてもらえる立場じゃないのに」
「とにかく今日は休んで。悪いが最近忙しくて、連絡は遅くなるかもしれない。ホテルはこちらで払うから、いつまでいてくれてもいい」
「ありがとう海里。やっぱりあなたは優しいわ」
 何度もお礼を言って、彼女はタクシーに乗った。
「お兄様、最低」
「なにも知らないのにけなすな」
「私の姪ってことは、お兄様の子供ってことじゃない」
「そうなるな」
「千遥さんは知ってるの?」
「……」
「逃げて当然よね」
 海恋は怒り、乗って来たピンクのノールスロイスで帰っていった。
 
 ホテルに着いた茉優は部屋に入って舌打ちした。
「しけたホテル」
 普通のビジネスホテルだった。彼がとる部屋なら高級ホテルのスイートだと思ったのに。
 ベッドに置いた赤ん坊がふいに泣き始める。
「ああ、うるさい!」
 ばん! と物をなげつける。当てないようにしたが、赤ん坊はさらに泣きわめいた。
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