財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 朝食のためにダイニングに連れて行かれた千遥は驚いた。
 ダイニングとは思えない広さだった。
 大きく長いテーブルの端っこに三人分の朝食が用意されている。
 千遥と恋海が席につくと、少し遅れて身支度を整えた海里が現れた。
 まるで別人だった。
 スーツを身にまとった彼はモデルもかくやという出で立ちで、スラリとして足が長い。癖のある髪は斜めに分けられ、おしゃれさが倍増している。南洋の血を思わせる顔立ちがエキゾチックだ。
「ここだけの話、うちの兄、おすすめよ。惚れっぽいけど惚れたら一筋。33歳、独身」
 千遥は慌てて首をふった。今はそれどころではない。
「ちなみに私は22歳。千遥さんは?」
「28です」
「うん、いい感じ」
 ちっともよくはない。千遥は唇をまっすぐに結んだ。
「先ほどは失礼した」
 きりっとして海里が言う。
「昨日はうちの船の進水式で、その後はパーティーがあってね。少し飲み過ぎてしまったようだ」
 そういえば、そんなことを誰かが言っていたように思う。
 あれは確か普通の船ではなかったはず。
 最近忙しかったからしっかり覚えていないが、マリーナの経営者が作ったと聞いた。ならばこの人がマリーナの経営者なのか。経営者は真道グループで、この人は真道と名乗っていた。
「まさか創業者一族?」
「お兄様は真道グループの後継ぎよ。これもポイントよね。現在は専務」
 海恋はふわっと笑った。
 千遥は顔をひきつらせた。
 真道グループは造船業をはじめとしてリゾート開発もしている日本でも指折りの企業で、財閥だ。
「千遥さんはどうしてあんな時間にあそこにいたの?」
 海恋の質問に千遥は少し顔を歪めた。
「聞いたら食事が不味くなりますよ」
「いや、話してもらおう。あなたのことは知っておきたい」
 迷って、千遥は二人を見た。
 ふたりとも南洋系を思わせるはっきりした美形だった。キリリとした眉にぱっちりした目に厚い唇。
 二人の着ているものは見るからに高そうで、部屋の調度品も高そうだ。屋敷は控えめに言って豪邸だ。
 この人たちなら、と千遥は思う。少しはお金を貸してくれないだろうか。レンタル彼女をしたら報酬をくれると海恋は言った。どれくらいくれるのだろう。
「実は」
 うつむいて、千遥は話し始めた。
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