財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
***
千遥は昨日も元気に出勤した。
勤め先は相模湾に面した神奈川の羽山のマリーナにある。
羽山は高級住宅街があり、タレントや大会社の社長の別荘がいくつも立ち並ぶ。雑誌に掲載される店も多く、観光地としても有名だ。
マリンスポーツも盛んで、夏は海水浴客で賑わい、サーファーもよく訪れる。
ヨットやボートを楽しむ人のためにマリーナが作られていた。ヨットやボートを停め、保管する施設だ。防波堤や消波堤もあり、ドック、休憩施設、ホテルもあり、クラブハウスや給油施設もある。
その中にあるカフェレストランが彼女の勤め先だ。経営しているのは彼女の恋人の重岡裕太で、彼が店長であり社長でもある。
この時期は店もマリーナもクリスマスの飾り付けであふれ、イルミネーションが点滅している。
いつも通りのマリーナ、いつも通りのカフェレストランBlack-tailed gull。日本語でウミネコだ。
いつもと違ったのは、裕太がいないことだった。
「店長は?」
「体調が悪いから休むって連絡があったわ」
バイトに聞かれて、千遥は答える。
彼女の店での立場は副店長だ。バイトを指揮して経理も手伝っている。事務は別で一人、武井美織という女性がいるが、彼女はどんなに忙しくても店頭に立つことはない。
「武井さんも体調不良でお休みだと連絡がありました」
バイトがおずおずと言う。
「そう」
千遥は内心穏やかではなかった。