財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 最近、二人の距離が近すぎると思っているところだった。
「今日は店長がいない分、頑張らないとね。頼むわよ」
 はい、と元気よくバイトは答えた。
 
 人手は足りなかったが、シェフもバイトも頑張ってくれてなんとか店は回った。
 問題が起きたのは夜だった。
 八時半のラストオーダーを過ぎて客がはけたあと、二人のガラの悪い男が店に入ってきた。一人は柄シャツを着て、一人はスーツを着崩していた。
「すみません、もうお店は終わりで……」
「だから来たんだよ。客に聞かれたくないだろうからな。俺ってやっさしい!」
 スーツの男はおちゃらけて言った。
「どういうご用件でしょうか」
「あんたの借金について」
「借金なんてありませんけど」
「とぼけんなよ、社長さん」
「社長は休みです」
「とぼけんなって言ってんだよ!」
 柄シャツが怒鳴る。
 びくっと体を震わせて、千遥はあとじさる。
 バイトがちょっと離れたところで様子をうかがっている。
「まあ落ち着けって」
 スーツが柄シャツの肩を叩く。
 柄シャツは頭を突き出して千遥を威嚇してにらみつける。
「これ見ろよ」
 スーツは懐から紙を出して彼女に見せた。
 借用書だった。
「なにこれ!」
 奪い取るようにして紙を見る。千遥が社長で、会社の名でお金を借りたことになっていた。その額、一億あまり。
「期限は今日なのに一銭も返されてないんだよね。って、今は銭って単位は使ってないってか!」
 また男はけらけらと笑った。
「偽造よ、こんなの」
「裁判所でも警察でも行ってもいいぞ。それはコピーだが原本は本物だからな」
「今日はごあいさつで帰っておくよ。また明日な」
 男たちは笑いながら店を出ていった。
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