財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
「そんな男のために死ぬ必要はない!」
 海里が憤慨した。
「死にたかったわけではないです。ただ、もう何もかも忘れて眠りたい、と思っただけで」
 行動は同じかもしれないが、気持ちは違う。否定しておきたかった。
「お兄様、どうにかして差し上げて」
「よし、結婚しよう」
 言われて、千遥はがっくりとうなだれる。
「普通、まずは弁護士じゃない?」
 海恋につっこまれ、海里は不満そうに眉根を寄せた。
「冷めちゃったね。作り直させる?」
「大丈夫です。いただきます」
 千遥は慌てて食べ始めた。これで一食分を浮かせられる。一億の借金には大海に水を一滴垂らすようなものだが。
「今日は仕事休む」
 海里が言う。
 二日酔いか気まぐれか、そんな程度で仕事を休めるのか。
 お金持ちはいいな、と千遥はため息をついた。

 自宅に帰ることなく、千遥は勤め先に出た。
 弁護士に相談に行くために必要な書類を、と思ったのだが。
 落ち着かない気持ちで、千遥は同行した海里を見る。
 送る、と言い張る彼に、では勤め先まで、とお願いした結果がこれだった。
 彼は黒い外車で彼女をマリーナに送るだけではなく、そのまま彼女の職場であるカフェについてきてしまった。
「仕事をする女性の姿というのはいいものだな」
「それほどのことしてないですけど」
「かまわない、続けてくれ」
 ため息をついて、千遥は書類をコピーしていく。原本を持ち歩くのは怖かったからだ。
 コピーを終えた書類をまとめようとすると、横からすっと手が伸びてそれらを奪った。
「なんですか」
 海里は返事もなくそれらをぱっぱっと見ていく。
「よしわかった。会社は俺がなんとかする。迷惑をかけたお詫びだ。遠慮なく受け取ってくれ」
 書類を返した彼は爽やかにふわんと笑った。
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