ウソの魔法に、君とかかる (短)
「花崎くん、あ、あのね……」
「え、うん? どうしたの、暮石さん」
花崎くんの顔を見られないまま、恥ずかしくて、顔を上げられないまま。
私は自分の上履きしか見ることが出来ず、そして――
この先に幸せな可能性しかないと、信じて疑わなかった。
「わ、私……花崎くんのことが……っ」
「え」
花崎くんが「え」と驚いた声を出したのも、ドキドキしてる私には聞こえない。
いま聞こえるのは、自分の心臓の音のみ。
「花崎くんのことが、好き……っ」
「!」
最後の「好き」は、消えてしまいそうなほど小さな声。
だけど、静かな廊下だと、花崎くんの耳に充分に届いて……。
「え、っと……」
そして、私の想いが花崎くんに届いた瞬間。
この静けさは、とたんに変わった。