ウソの魔法に、君とかかる (短)
「む、無理むり! そんなのダメだよ、黒瀬くん!」
だって黒瀬くんは、クラスの人気者で。イケメンで。
反対に私は、明日からイジメられるような子。
「こんな私に、そこまで優しくしなくて、大丈夫。でも……ありがとう」
「……はぁ」
なぜか、黒瀬くんがため息をついた。
すっごく大きなため息。
すると不思議なことに。
同じ時間に、強い風が吹く。
それは私の長い髪をさらい、目の前でゆらゆら踊る。黒瀬くんが、私の髪で見えたり、見えなかったり。
邪魔だなぁ、なんて。
そう思っていると――
「俺は、好きだけど」
黒瀬くんは私の髪をやさしくつかまえ、そしてキュッと。手の中にとじこめる。
「す、好き?」
「うん。暮石の…………長い髪」
私の髪?
プリンセスを真似してのばした、この髪が?
「そ、そう……なんだ。ありがとう……?」
「…………うん」
黒瀬くんは頷きながら、ゆっくり自分の手を広げた。
すると手から離れた私の髪は、風がやんだ今、私の元へ静かに戻る。