絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
百八十二センチのすらりとした高身長に引き締まった身体。鋭利に整ったつり目のせいでやや冷たい印象を受けるものの、端正に整った顔立ちに相応しい美しい所作と丁寧な言葉遣いには、女性である絢子ですら見惚れるほど。絢子の婚約者であり、憧れでもある昔からずっと大好きな人。
「まったく……こんな薄着でうろついていい時期でも時間でもないぞ」
その獅子堂玲良が、絢子を見つけ出してくれた。身体が冷えていると言って、絢子の頬を温かい手で優しく包み込んでくれた。
玲良が絢子を発見できたのは、きっとスマートフォンのGPS機能のおかげだろう。少し安堵したように微笑む玲良を見ていて、以前『なにかあったときのために位置情報を送受信するシステムを導入しておけ』と助言され、高いセキュリティ機能を有するアプリを設定していたことを思い出した。
だがそれ以外はなにもわからない。獅子堂財閥が経営会社の一つである『レオ・ル不動産』の若き社長である彼は、日々仕事で忙しいはず。そんな彼がこうして絢子の目の前に現れた理由がわからない。
なにも反応できず呆然としていると、ふっと表情を緩めた玲良が絢子の手を引いてベンチから立たせてくれた。
「行くぞ。車は向こうだ」
「ま、待ってください、玲良さん……! 私……っ」
「話は後で聞く」