絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
3. 抱きしめられて、ぐらり
獅子堂家のリムジンが向かった場所は、グラン・ヴィリオ・エンパイアホテル東京――獅子堂財閥グループが経営するラグジュアリーホテルの一つだった。
外観は重厚で壮麗なレンガ造り、内装やインテリアには繊細なガラス細工や趣のあるアンティーク調のデザインが多用されており、建物内はどこも優美で上品な印象がある。
また大きな通りから一本入った場所にあるためか、都内有数の繁華街に面している割にはエントランスにもロビーにも静かでゆったりとした空気が流れている。広くて開放感のあるおしゃれなカフェラウンジも居心地が良さそうだ。
しかし玲良がその空間で立ち止まることはない。
エントランス前のロータリーで待っていたポーターからルームキーを直接受け取ると、絢子の腰を抱いたままフロント前を通過してチェックインをパスする。さらに淡く煌めくシャンデリアの下を通り抜け、金の装飾が施された豪奢なエレベーターに颯爽と乗り込み、上階へと向かう。
やがて到着した客室に――ホテル内最高ランクのロイヤルスイートルームに導かれた絢子は、困惑からぱちぱちと目を瞬かせた。
「あの、玲良さん……? この部屋は?」