絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 グラン・ヴィリオ・エンパイアホテル東京のロイヤルスイートルームなど、宿泊どころか立ち入ったこともない。

 一泊五十万円をゆうに超えそうなこの部屋は、広い空間にクイーンサイズのベッドが二つ並んだベッドルーム、ここで会議も行えるのではと思うほど大きなテーブルと、それを取り囲むように六つの高級ソファが置かれたサロンルーム、大画面テレビやダイニング、応接セットや広いキッチンまで完備されているリビングルームの三室が、一続きになっている。

 金額だけで考えれば桜城建設グループの社長令嬢でも宿泊はできるだろう。ただしグラン・ヴィリオ・エンパイアホテル東京のロイヤルスイートルームは、国内のみならず海外のメディアからも高い評価を得ている人気の部屋のため、簡単には宿泊予約が取れないと聞く。

「今日から当面の間、絢子が生活する部屋だ」
「……え?」

 そんなところに絢子を招き入れてどうするつもりなのだろう――そう訊ねるより早く、玲良が予想外の提案を持ちかけてきた。

「東館のスイートの方が広いけどな。替えてもらうか?」
「えっ……い、いえっ……!」

 彼があっさりと告げてきた言葉に仰天しているうちに、さらに驚きの提案をされる。現在いる南館のロイヤルスイートルームよりも、数年前にリニューアルした東館のロイヤルスイートルームの方が広くて快適だという。だが絢子はもう十分驚いている。これ以上は心臓に悪い。

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