絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

「ちゃんと眠れたか?」
「あ、はい……おかげさまで」
「そうか、よかった」

 どちらかというとクールで落ち着いた性格の玲良は、他人ににこにこ愛想を振りまくタイプではない。クリスマスイブを含む年に数度顔を合わせるときも、笑顔より無表情や冷静な表情が多い印象だ。

 しかし絢子の寝顔を楽しそうに眺める表情も、顔を洗って仕事に行くために着替えるときの横顔も、ホテルのスタッフが用意してくれた豪華な朝食をダイニングで向かい合って食べるときも、今日の玲良はなんだかやけに嬉しそうだ。まるで絢子と過ごすこの時間をずっと心待ちにしていたと言わんばかりに。

 これでは『もう一人で大丈夫です』とも『これ以上は遠慮させてほしい』とも言えなくなってしまう。

「新婚みたいだな」
「え、し、新婚……?」
「まだ早いか。まずは絢子に、俺のプロポーズを受け入れてもらわないとな」

 さらに嬉しそうに微笑まれると、絢子の声もつい裏返ってしまう。

 もちろん絢子も、本当は嬉しい。毎年クリスマスイブの夜もレストランで食事をして少しだけ散歩を楽しむが、どこかに宿泊したことはない。だからあんな辛い仕打ちを受けた後だというのに、二人で朝を迎えて一緒に朝食を摂れることを夢の続きのように感じてしまう。

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